前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「まったくアレックスは。ん? あれはキャシーではないか」

「キャシー? って、え゛」


向こうからワンワンと声。

なんだろうなぁっと振り返った瞬間、別のゴールデンレトリバーが俺に向かって走っ……ちょ、これはっ、ぎゃああっ! ドンッ、ドッスン。


走ってきたゴールデンレトリバーののしかかりを思いっ切り食らっちまった。しかも重い。


へっへっへっ、俺を見下ろしてくるキャシーと呼ばれたゴールデンレトリバーは円らな瞳で俺を見つめてくる。

えーっと、ナニその目。

遊んでオーラ満載なんだけど。


「んー? 遊んで欲しいのか? こうして見るとお前、可愛いな。うわっつ、く、くすぐったいって」


べろんと長い舌でキャシーが顔面を舐めてきた。

何度も何度も舐めてくるキャシーに、「くすぐったいって」笑声を漏らしつつ体を撫ぜてやる。

大喜びのキャシーは、ブンブン尻尾を振って俺の顔をべろべろべろ。


う、嬉しいのは分かったけど、これは、これはちょっと辛いかも。


「この子も先輩の愛犬っすか? うはっ、そんなに舐めるなって」

「いや、キャシーは咲子姉さんの犬だ。此処はあたし達四姉妹の愛犬が集っている。さてと……こらキャシー! あんた、いつまで空を舐めている! 空を舐めて良いのはあたしだけだぞ! しかも押し倒しっ、あたしに対する宣戦布告か!」


「わん!」


「おーおーそうかそうか。なるほど。宣戦布告かっ! あんたは攻めメス犬だったんだな! 咲子姉さんにあんたとは好敵手になったと言っておいてやるからな!」


「……先輩、犬相手にナニ言ってるんっすか」


大人げなーくキャシーに捲くし立てている先輩の傍で、アレックスが俺に向かって吠え始める。


多分嫉妬からの吠えなんだろうけど……あれだ、ペットは飼い主に似るってヤツだろうな。

キャシーに捲くし立てている先輩の姿と、俺に吠えてくれているアレックスの姿がすこぶる似てる。似ちまっている。
< 242 / 446 >

この作品をシェア

pagetop