前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
書斎部屋の後は、先輩の愛犬小屋へ。
ゴールデンレトリバーを飼っているって前に教えてくれたから、見に行ったんだけど……到着した犬小屋は愛犬小屋っていうより愛犬部屋。
俺の家と同じくらいのスペースがあるんじゃないか。
部屋の中には先輩の愛犬アレックスがいた。
いいよな、金持ちの犬は。
こういうぜーたくなお部屋に住めるんだからさ。
テラスまであるとか、どんだけだよ畜生。
犬に負けた敗北感が拭えない。
多数犬を飼っているみたいでゴールデンレトリバーの他にも、ラブラドールレトリバーや柴犬の姿が見受けられる。
でも先輩がいっちゃん可愛がっているのはアレックスみたいで、俺等が入ってくるや否や猪突猛進でゴールデンレトリバーが突っ込んできた。
ワンワンキャンキャン甘えたな声で鳴くアレックス(♂)は先輩にベタ惚れのよう。クーンクーン可愛らしい声で鳴く。
だけど、俺にはすこぶる吠えるわけだ。
コノヤロウ、俺の主人に近寄るんじゃねえ! そんな勢いでギャンギャン吠えてくる。
だって近寄っただけで歯茎を剥き出しにするんだぜ?
ぜってぇ嫌われているだろう。
触ろうとか論外。噛み付かれるのが目に見えている。
あんまりにも俺に吠えるもんだから、「こら。アレックス」先輩が怒ると尻尾がシュンと垂れちまう。
なんだか可哀想になって「いいっすよ先輩」、俺はお構いなくと苦笑い。
「すっごく先輩のこと好きみたいだから、俺に嫉妬しているんっすよ。初対面だし警戒心も抱いているのかも」
「すまないな空。いつもはいい子なんだ。客人にだって殆ど吠えないというのに」
溜息をつく先輩の顔に、もっと居た堪れなくなったのかアレックスが小さくクーンと鳴いちまった。
あーあーあー、ごめんごめん、俺が悪かったよな。先輩のこと大好きなのに、俺が傍にいるから怒っちまったんだよな。
犬に向かって話し掛ければ、不機嫌に大音声でワンワン吠えられた。
……同情はいらないってか? そりゃまたごめん。