前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


ようやく、おどけ口調を叩けるまでに回復する。

目で笑う先輩は気にしていないという素振りで、俺の目尻に親指を這わして綺麗に涙を拭ってくれた。

ぺろっと涙を舐めてしょっぱいと感想をくれる彼女は、窓の向こう、日が沈み始めた空を見つめてポツリと言う。


「いつか、もし辛くて押し潰されそうな日が来たら、真っ先に頼って欲しい。真っ先に、あたしに頼って来い。空」

「先輩……?」


「あたしはな、空。これでも惚れた男には徹底的に尽くしたいタイプなのだぞ。特に入学する前からあんたに惚れ込んでいたあたしだ。それくらいの見返りは求めたっていいだろう?

空、あたしはあんたが入学する前からあんたのことを知っているんだ。両親思いだということも知っていた。知っていたさ。

あの日、学食堂で出会う前からずっとあたしは、あんたを見ていたんだ」


リフレインする先輩の台詞に俺は、軽く目を見開いた。


「嘘っすよ」

「本当だ。あたしは知っていたさ、入学する前から、あんたのことを」


あどけなく笑う先輩は、俺の出身中学と三年の時の組をズバリ言い当てた。

単に調べ上げたんじゃ、疑念は抱いたけど真っ直ぐに見つめてくる先輩の瞳には一点の曇りもない。
 

思わず腰を上げそうになった俺だけど、どうにか思い止まって先輩を熟視する。


俺はこんな美人さん、一度見たらそうは忘れられないけどな。

会ったことはない筈なんだけど。


「いつ、どこで?」俺の問いに、「それは秘密だ」まだ教えてやらないのだと先輩は悪戯っぽく笑った。


「まあ、あたしにとってあんたが運命のヒロインだということだけは確かだな。あたしは当然ヒーローだ。これは決まっていた運命だ。あんたはあたしの姫様になるんだ」


「姫、俺がっすか?」


苦笑する俺に、先輩は姫は固定だぞ、と意気揚々と答えてくれる。


こうして先輩はいつもどおり接して、遠回し遠回し俺を励ましてくれている。


俺には分かる。分かるんっすよ、先輩。



ありがとう、先輩。

いつも先輩は俺を助けてくれる。

攻め攻め押せ押せで性交だのなんだの言ってくれる困ったさんだけど、だけど。

< 247 / 446 >

この作品をシェア

pagetop