前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


寂しいんだろうなって分かったから、「また遊びに来ていいですか?」ありきたりな言葉で彼女を慰めた。


途端に破顔する先輩は「今度こそしような」と燃えていた。うん、燃えてくれた。


元気になってくれて嬉しい反面、毎回俺はサバイバルを強いられるんだろうかと身の危険を感じたり。

ほんの少しだけ、自分の放った台詞を後悔した。


そうそう。

母屋を出て正門に向かう途中、俺は真衣さんと顔合わせになった。


真衣さんは俺達が日曜という休日を満喫している間、ビジネスマナー教室に行っていたらしい。

特に真衣さんはご両親に期待を寄せられているらしいから、そういった作法にすこぶる気を付けるよう言われているらしい。


ややお疲れ気味の真衣さんに、「お邪魔しました」頭を下げれば、「また来てくださいね」優しく微笑まれた。

次いで、先輩にいってらっしゃいと挨拶。


「気を付けて行って来て下さいね。鈴理さん」

「お心遣いありがとう。真衣姉さん。いってきます」
 

ふっと笑みを浮かべる先輩だけど、その笑みは何処となく余所余所しい。

一線引いているんだと他人の俺から見ても丸分かりなんだから、真衣さんは余計状況を理解しているだろう。

寂しそうに真衣さんは会釈をして母屋に向かった。


その際、振り返って俺たちにヒトコト。
 

「昨日はとても素敵な夜だったみたいね。空さま、キスマークが一杯……ハッ、ということは鬼畜になった空さまが恥らう鈴理さんに痕を付けるよう強要……キャー! 空さまそんなっ、キャー!」


………限りなく余計なヒトコトを言い放ったのは言うまでもない。


「真衣姉さん! あたしは攻め女ですよっ、恥らわせる専門ですから!」
 
  
これまた先輩が余計なヒトコトを返したんだけど、俺はツッコむ気にもなれなかった。

キャーと興奮しながら母屋に向かう真衣さんに、「まったく」息をつく先輩は俺に声を掛けて正門に向かい始める。

バカみたいなやり取りだったけど、今のやり取りこそ、二人が素で話せた瞬間なんじゃないだろうか?

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