前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「あんたが一緒に逃げると言ったんだ。一緒だからな。あたしの命令を無視して一緒にいると言い張ったんだ。一緒に逃げるぞ」
「分かっています……大丈夫、一緒に……あーその前に肩の枝っ」
「馬鹿。抜いた方が酷くなる」
先輩の言葉をスルーして俺はグッと枝を抜き取って、その場に転がした。痛みで体が跳ねた。
痛覚はびんびんと感じてくれるわけね、俺の体。
息をつき、彼女の手を借りながら立ち上がろうと躍起になる。
ガクガクと膝が笑っている。
限界ってか? バカタレ、膝が笑っている間はまだ余裕だろ。
本当に余裕がなくなったら一ミリも体が動かないに決ま……パンッ――!
風船が破裂したような音。
聞こえてくる銃声に雑木林で眠っている鳥達が驚いて夜空へ舞い上がった。
俺達にも翼があったら、空にびゅーっと逃げられただろうに。
こんなことを思う時点で、実は相当やばいのかも。視界がくらくらのフラフラする。
二重三重にぶれる視界を振り切り、「行きましょう」俺は彼女に声を掛ける。「ああ」見上げてくる彼女は力強く頷いた。
「此処で終わったら、約束が果たせないからな」
ほんっとすね、一笑を返して歩みを再開する。
嗚呼、最悪、ぐらっと足が崩れて振り出しに戻っちまった。俺のお馬鹿。
「空!」
しゃがみ込む俺に大丈夫かと声を掛けてくる彼女に小さく自嘲。
「ちょい眩暈が……情けないっすね」
でも大丈夫だと笑ってみせた。
格好をつけたんだ、最後まで格好をつけないとダサいじゃんか。
「あたしがあんたをおぶる。背中に乗れ」
せめて。
嗚呼、せめて。
「大丈夫っす。歩けますっす、お姫様」
不安と心配で染まっている彼女の前だけでも格好つけないと。な?
パンッ、パンッ、パン―ッ!
激しくなる銃声に先輩が俺の頭を抱き締めて、周囲をぐるり。
誘拐犯が近くにいないか警戒心を最高レベルに高めて神経を研ぎ澄ませている。息を詰め、「大丈夫。守るから」心強く励ましてくれた。
だから先輩、今は俺がヒーローっす。
大人しく守られて下さいよ、心中でツッコミながらも意識が段々と朦朧としてくる。