前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


あれ以来、先輩の周辺のガードマンが増えたらしい。

先輩はチョー窮屈だと不満を漏らしていたけど、暫くは我慢するとか。

ご両親や姉妹の心配を沢山受けたようだ。


散々姉妹には泣かれたと苦笑交じりに教えてくれた。


特に次女の真衣お姉さんにはワンワン泣かれて、それは大変だったらしい。


まだまだ家族の間に溝はあるけれど、先輩自身何か思うことがあったのか、少しだけ自分から歩んでみてもいいかもしれない。

それこそ無条件に仲良く出来ていたあの頃にもう一度に戻るため、努力してもいいかもしれない。


うやむや決意を俺に耳打ちしてくれた。

あくまでうやむやだから、本当に出来るかどうかは疑問らしい。


思うだけなら簡単だからなぁ……と先輩は繰り返していた。


俺はそれでもいいと思った。

だって歩もうと思っている時点でプラスだと思うから。


入院している間、何人かの人に見舞われた。

聴取に来た刑事さんを除けば鈴理先輩、先輩のご両親姉妹、フライト兄弟に、クラスメート。それから大雅先輩や川島先輩、宇津木先輩。


そうそうイチゴくんも来てくれたんだ。

アポなしで来てくれた時はかんなり驚いたよ。


どうやらアジくんがメールで連絡したみたいなんだ。


花畑さんと一緒に来たもんだから、申し訳なさで頭をペコペコと下げるしかなかった。


ちなみに俺の病室は個室。

個室って料金が高いらしいんだけど、先輩のご両親があれやこれや手を回してくれたから料金は工面され免除されているそうだ。


申し訳ない気もしたけど、向こうの言い分としては体を張って娘を守ってくれたから、らしい。


これからも鈴理と仲良くしてね、ご両親にそう言われて俺は苦笑いを零すしかなかった。


お言葉を頂戴する限り、まだボーフレンドという称号からは抜け出せそうになさそうだ。



こうしてバタバタとした日々を過ごしていたのだけれど、次第に落ち着いて今は穏やかに時間を過ごしている。



誘拐事件が傷になっていないわけじゃない。 


ふっとした瞬間に恐怖心を思い出してしまう。

特に銃口を向けられた畏怖が今も脳裏にこびり付いている。ありゃ怖かったってもんじゃない。


でも皆が支えてくれるし、当事者の先輩自身も頑張って乗り越えようとしているんだ。


どうにか俺も乗り越えられそうだ。


……まあ、今しばらくはこの記憶に苦しまされそうだけどさ。 


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