前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「空、退屈しのぎに沢山ケータイ小説を持って来てやったぞ。それだけじゃ飽き足ると思ってな、コミック版も持ってきた。ちなみにこれはやるから心配するな」


どどーんとベッドサイドテーブルに大量の悪魔本、じゃね、ケータイ小説本とコミックが積まれていく。

ああ嘘だろ、また増えたよ。

昨日も持って来て下さいましたよね? まだ読み切ってないんっすけど。家にもまだ読んでいないケータイ小説文庫があるんっすけど。



俺は引き攣り笑いで取り敢えずお礼を告げた。

明日も持ってくる、満面の笑顔を作る彼女にストップを掛ける。


これ以上持って来られても、読み手が困るだけだ。

それに明日はもう必要ないよ先輩。
 

「明日には退院しますよ」


俺の言葉に、「そうか!」彼女は嬉しそうに笑みを零した。つられて笑みを零す。



あの忌まわしい誘拐事件から数日が経った。

思い返しても、まだ夢を見ていたんじゃないかと思う、嘘のようで本当に起きたどんちゃん事件。


一連の事件で俺は怪我を負い、入院を余儀なくされた。

暴行を受けたり、崖から転げ落ちたり、銃で撃たれたり……無理に無理が祟ったらしい。


一番やばかったのは崖から転げ落ちて頭と体を強打したことだとか。

銃で撃たれたことよりも、そっちの方がやばかったそうな。

実は落ちた崖結構な高さがあったらしく……思い出すだけでも胃がキリキリする。


人間死ぬ気になりゃあ、なんでも出来るっつーけど、もっかい同じ場所から転げ落ちろって言われたら、当然無理だと即答する。

もう無理。

俺はただの人間で高校生。

アクションごっこは懲り懲りだ。



一方で先輩は擦り傷程度だったから、一日、二日、学校を休んでまた元気に学校に登校しているとか。

学院で話題になっているみたいだけど、あんまり先輩に事件を聞いてくる人はいないそうな。


そりゃそうだ。

当事者に事件のことなんて聞けるわけないだろう。聞けたら、どんだけデリカシーのない奴だって俺は罵るね。

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