前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



「空さん、貴方のせいだなんて誰も思っていませんよ。私達も、貴方の実親も……寧ろ、子不幸にさせたのは大人の私達かもしれませんね。実親は貴方を置いて逝き、私達は貴方に苦労ばかり掛けた」


「おれそんなこと、ぜんぜん」


「その気持ちは私達も同じですよ。空さん。子供の貴方が親に気を遣ってどうするんです? もっと我が儘になりなさい」


嗚呼、敵わない。母さんには敵わない。

そして言葉がもうこれしか浮かばない、一つしかもう出てこない。


世界中何処を探してもいない実親と、ずっと傍に居てくれた両親に向かって、「ごめんなさい」


黙って公園に行ってごめん、黙って避けてごめん、心配掛けてごめん、こんな息子でごめん、嗚呼ごめん節のオンパレード。


りんごの載った皿を落としちまうけど、俺はごめんを繰り返して母さんに詫びた。


一つひとつに相槌を打つ律儀な母さんは、「もういいんですよ」息子を抱き締めて背中をよしよし擦ってくれる。


嗚咽が嗚咽にすらならなくなる。 

母さんの服を握って、俺は此処が病院にも拘らず大声で泣きじゃくった。

目の前で死んだ両親の恐怖から、後悔から、何から何まで吐き出して崩れるように泣き続けた。


きっと俺はこうして親に甘えたかったに違いない。


誰でもない親にこの気持ちを聞いてもらって、ぬくもりを与えてもらいたかったに違いない。


だって俺はずっとこの人達の息子だったんだ。

どんなに似てなくても、血縁が薄くても、生活が苦しくても、この人達が俺を引き取ってくれた。息子でいさせてくれた。


そんな親に、俺はずっと甘えたかったに違いない。


< 435 / 446 >

この作品をシェア

pagetop