前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
その夜、俺は久しぶりに心の底から眠りに就くことができた。
記憶が蘇って以来、ちゃんと眠れたためしがなかったんだ。
母さんと、いつの間にかいた父さんの前でたっぷり子供らしく癇癪起こして、泣いて、嘆いて、喚いたから安心しちまったんだと思う。俺も単純な生き物なんだ。
寝る前に母さん達と約束した。
記憶が戻った今、あの事件は誰も責めていないからもう自責しない……ちょっと無理だから、辛くなったら取り敢えず親の前で癇癪を起こせ、という変な約束を交わした。
親曰く「避けられるより断然マシ」だそうな。
ごめんって父さん母さん。反省している。
もうひとつ、約束した。
近々三人で実親の墓参りに行く大事な約束を交わした。
そこで俺は両親にちゃんと報告しなさい、と促された。
鈴理先輩のこととか、学校生活のこととか、記憶が蘇ったこととか。
近状を報告する、それが実親への親孝行だって教えてくれた。
んじゃ、父さん母さんへの親孝行は? 聞けば二人はこう返してくれた。
まず怪我を治して元気よく学校に行くこと。
でもって、もう少し親を頼ること。
これが二人への親孝行だそうな。
謙虚な要望だと思ったけど、ああそうか、後で一人で納得した。
もう少し親子らしくしたいんだ、二人は。
俺はそのつもりでいたんだけど、まだまだ俺等も家族として未熟な部分がある。
先輩には超偉そうなこと言ったけど、俺も知らず知らず両親との間に壁や溝を作っていたに違いない。
俺、馬鹿だから気付かなかったよ。
そんな馬鹿息子だけど、父さん、母さん、これからもこんな息子を宜しく。俺は二人の息子で本当に良かった。良かったよ。
⇒Epilogue