前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「どーしよう。鈴理先輩から借りたヤツなのに。携帯って高いんだろうな。弁償なんて今の俺の家じゃ到底できっこないだろうし」


溜息をつく俺にエビくんは落ち着いて、と声を掛けてきた。


「ちゃんと仕舞ったんだろ?」


優しく問い掛けてくるエビくんに向かって俺は力なく頷いた。


ちゃんと仕舞ったんだ。

しかも取られないよう裏ポケットに。


持ち出す時は失くしたら大変だって、意識してしっかり手に持っているし。


なのになんで無いんだ?


項垂れる俺の肩を叩いてエビくんがもう一度探してみようと、教科書やノートを綺麗に整理し始める。


「大丈夫だって空くん。僕も君が仕舞っているところを見ていたし。君は几帳面だから、壊したら不味いって思って別の場所に仕舞ったのかもしれない」

「だといいんだけど……でもちゃんと通学鞄の裏ポケットに仕舞ったんだ」


「どうしたんだ? 空。笹野」


俺達の様子に身支度をしていたアジくんが気付いたのか、こっちにやって来た。

「携帯が無くなっているらしいんだ」

エビくんが携帯のことを説明してくれる。

「空が失くすことはないだろ」

アジくんはちゃんと探したのかと眉根を潜めた。


「空がめっちゃ大事にしてたの俺も見ていた。教室戻ってきてから直ぐに茶色い巾着袋に仕舞っていただろ?」

「うん。そうなんだけど……無いんだ。ほんっと何処にいったのかな。鈴理先輩の連絡先が入っているのに」


俺は空っぽになった通学鞄をひっくり返し、上下に大きく振る。

これで出てくるとは思えないけど、なんとなく気持ち的に出てこないかって期待を持った。


でも出てきたのは紙切れのみ。

多分プリントだと思う。


何も出てこないことにガックリ肩を落とした。


やっぱり無い。

どうしよう、先輩から借りた大事な携帯なのに!


「ん? これ」


エビくんが出てきた紙切れを拾い上げて目に通す。

< 73 / 446 >

この作品をシェア

pagetop