前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「……空くん、携帯、預かられたっぽいよ」

「え?」


素っ頓狂な声を上げて俺はアジくんと一緒に紙切れを覗き込む。

紙切れはプリントじゃなかった。


ノートを破って綴られた俺宛の手紙。


『親愛なる豊福空さま。
貴方の携帯は貴方の恋人の鈴理が預かりました。返して欲しかったら、体育館裏に来て下さい。じゃないとお・仕・置・き・よ! 来ないと別れちゃうんだからね! 貴方の竹之内鈴理より』


なんだこれ、阿呆な文この上ない。

分かることは鈴理先輩からの手紙じゃないよな。絶対に。

貴方の携帯って、俺の携帯は鈴理先輩から借りたものだしさ。


こんな阿呆な文章を書く先輩じゃないぞ。

手紙の字はえらい汚いしさ。


取り敢えず体育館裏に行けば携帯は返してもらえるのかな。

俺は急いで教科書や筆記用具を鞄に詰め込んだ。


あれは先輩から携帯だしな、返してもらわないとほんっと困る。


チャックを閉めて鞄の蓋を閉めた俺は肩から鞄を掛けた。よし行こう、体育館裏へ!


だけどフライト兄弟に止められた。


「ちょっと待てって空。これ、絶対におかしいだろ。明らかにお前を誘い出すための阿呆な手紙っていうかさ。一人で行くには危険だって」

「そうだよ。もしかしたら噂の親衛隊の仕業かもしれないよ」


体育館裏への呼び出しなんてまさしくそれっぽいじゃないか。エビくんの意見に俺は確かに、一つ頷いた。


だけどさ、携帯は大切なものなんだ。

行かないわけにはいかない。


壊されたらとんでもないことになる。

申し訳も立たないって!


携帯なんて高価なものを弁償するお金もないし、あれは先輩が俺と連絡を取りたいから貸してくれた大事な物なんだ。

心配してくれる二人に大丈夫だと綻んで俺は急いで教室を飛び出す。


だがしかし二人にガッチリ通学鞄やら腕やら掴まれた。


「ちょ、放せって!」


焦る俺に、「真っ向から行くのは危険だから!」とエビくん。「まずは策を立てろって!」とアジくん。


そんなこと言われたって行かないことには話も始まらないじゃないか。

放せと喚く俺に二人は落ち着けって喚く。


廊下を通行している生徒達には大注目。

何をしているんだこいつ等、という目で見られている。


ほら、そこの男子生徒とか、仲良く駄弁っている女子生徒とか、笑顔で仁王立ちしている鈴理先輩とか……仁王立ちしている鈴理先輩?


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