hiding
電車に揺られて3時間。私達は少し山の方の、長閑な旅館に着いた。

そこの旅館は露天風呂からの景色がうりで、山の雪化粧を一望できる。

「雪すごい!!私、早速露天風呂行って来るね」
「あぁ、俺も行こうかな」

幸いな事に、混浴はなく、ちゃんと男女別である。

「キャッホー!!俺達も行こうぜ!!」

遠くから随分賑やかな声が聞こえる。

「ちょっと、紫陽声がデカいよ」

あれ、今、『紫陽』って…

「相変わらず気が小さいな緋山は」
「まぁ、葵は背が小さいけどな」
「し、紫陽てめー!!」

『緋山』?『葵』?

「ゆ」と書いてある暖簾の前で鉢合わせた私達はお互いを確認して固まった。

「だーかーらー!!何でいつもお前らがいるんだァァァ!!」

口火を切ったのは蓮君。あぁ、なんかこれもうお約束だよね。

「おう、薺菜。元気だったか?」
「お陰様で。紫陽君は?」
「俺はこの通りだ。蓮は?」

「あぁ、うん……じゃなくて。お前らは何でここにいるんだよ」
「なんか菜々子の彼氏さんが誘ってくれて」
「じゃあ、菜々子も来てるの?」

私が息を弾ませて緋山君に訊ねたら、何故か苦い顔をされた。
< 55 / 67 >

この作品をシェア

pagetop