hiding

four princes

その日の放課後も菜々子とガールズトークの予定だったのだけど。

「ごめん、デート入ったわ」

恋に勉強に忙しい菜々子さんだ。

仕方ない、宿題でもやるか。今日は数学の宿題がたんまり出た。

引きこもってたお陰で本を読む事が多くて、私は国語が得意だ。その他の教科も人並みには出来る。でも数学だけはてんでダメであった。訂正、理科も苦手。

教科書と大量の宿題をやや乱暴に机の上に広げる。なんて多いのだろう、泣きそうになるではないか。

「…うぅぅ……」
「佐倉、さん?」

平面図形に手こずっていると不意に声をかけられた。チラリと目線をやる。

キラキラ。うっ、まぶしっ。

整った顔に苦笑を浮かべて立っていたのは、クラスメイトで学級委員の緋山君。品行方正、成績優秀。次期生徒会長に決まっているインテリ美男子。

「勉強教えようか?」
「…いいの?」
「今日の宿題だろ」
「うん。ありがとう、緋山君」

なんかよく解らないけど、数学の宿題が
片付きそう。ラッキー。

「平面図形は公式を覚えればいいよ。この四角形は円に内接してるから、この定理を利用して…」

うわぁ、解りやすい。なんか緋山君なんて馴れ馴れしく呼べない気がしてきた。

宿題を消化する頃には緋山君改め緋山先生と呼ばせて頂いていた。

「先生、今日は本当にありがとう」
「先生だなんて、大袈裟だよ」
「ううん、凄く助かった」
「勉強なんていつでも教えてやるよ」
「そんな事言ったら毎日お世話になっちゃうよ」
「…それでもいいけど」

緋山君が小さな声で呟くから聞き取れなかった。え?と聞き返すと、なんでもないよ、といつもの落ち着いた笑顔になった。

キラキラ眩しい。また、物語のヒロインになったような空気に包まれる。

私も、緋山君につられて笑顔になった。
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