禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
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……くさいです。鼻を刺す、酸っぱいような甘いような、えもいえぬ臭いにおいが、どこからか。

どこからか? 曖昧な物言いはやめましょう。その発生源の方向もわかっているなら、その正体もある程度、予想がついていますから。

「桔梗さん、今度はなにをなさってますか?」

女性につけられる名前を呼んで見やった先、いるのは二十代後半ほどの、男性。桔梗という花の名前をした彼は、妙に妙なところが多い妙な人です。平成の現代で洋服を持っていません。……裸という意味じゃありませんよ。和服です。桔梗さんは和服しか持っていません。頭は目も疑うような真っ白い短髪、右目に古風なモノクル、年代物らしいキセルを片手に胸元を緩くひけらかし、片膝を立てたあぐらでだらしなく番台に頬杖を突いています。曰く、その頬杖の突き方は太宰治をイメージしているそうですが、私にはよくわかりません。

とにかく、それだけ妙な装いの、さらになにが妙なのかといえば、ここは駄菓子屋なのです。倭ノ宮駄菓子店――ひまわり通りの裏手にある、小さな店です。そして今、桔梗さんはひとパック二十円の粉ジュースを数種混ぜ合わせて遊んでいました。異様な臭いの正体はそれです。
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