禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
溜め息を、つきました。

私がではなく、なぜか彼が。

何種類の粉を混ぜたか知れない、粉ジュースを見つめながら、それはそれは胡乱げにな溜め息でした。

「やや。辻井さん、おったのかね」

見た目によらず、もしくは見掛け通り、喋り方もじじ臭い、変わり者です。

私は腰に両手をやってふんぞりました。

「おりましたよ、数分前から」

この人が目を開けながら意識をどこかへトリップさせてしまうのは、今に始まったことではありません。彼の眼前をいかにうろちょろしようが、気付かないことがままあります。あまりに見事なほど私に焦点を合わせなかったものですから、最初に彼がそんな風になったあと、「どうかしたんですか」と訊ねてみました。

―― いや少々ね、千里ヶ崎と話しとってね。〝千約〟がの ――

という答えでしたが、意味不明です。ただぼうっとしていた人が、ケータイも使わずだれと話していたと? 千里ヶ崎というのもだれなのかは知りません。〝千約〟とやらについては理解不能です。せいぜい、彼が倭ノ宮なら千里ヶ崎というのも珍しい苗字だなあ、ぐらいの感想です。

今も私に気付いていなかったということは、その千里ヶ崎繋がりでしょうか。
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