禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
忘れたとは言わせません。番台に開いたままの資料を、ぺしんと叩きます。

「改めてお聞きしますよ。この事件、どう思われますか? さあ……さあ、桔梗さん!!」

か、こ。

言葉を発さない彼の代わりに、駒下駄の音がしました。振り返ると、香蘭さんがから、ころ、店を出ようとしていました。

もう、そっちは訊かなくてもわかります。

「おやつをあげに行くんですか?」

「はい」

また、とても優しげな声で答えてくれるものです。こちらまで、優しい気持ちになってしまいます。

手は資料を指したまま、私はにこりと、香蘭さんを真似たつもりで微笑み、

「そうですか。じゃ、いってら」

「香蘭や」

横から口を挟まれました。

香蘭さんは、間違いなく足の裏にローラーがついています。なにせ、その場で、最低限の経でくるりと振り返るのですから。
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