禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
いっさい私と香蘭さんに振り返らない桔梗さんは、ゆったりと話し始めます。

「辻井さんや、お前さんほどこの事件を足で調査しとる一般人はおらんだろうて。そのお前さんから見て、この事件……どうかの?」

「どうって……どの部分についてですか」

「全体像かの」

「残虐極まりな」

「ちょいちょい、辻井さんや。新聞の見出しじゃあ、ないんだから」

「む。これでも本気でそう思ってるんですよ」

「そうかぃ。んむ。すでにそこから、俺とは意見が分かれておるようだのう」

「え?」

「ふむ、香蘭や」

「はい」

そこで、桔梗さんは立ち止まり、振り返りました。飄々としていながら、いえ、しているからこそ裏の読めない笑み。

「やはり、ことに向かうにはあれが要るだわの」

あれ?

「鍵はいつものとこじゃから、ちぃと取ってきてくれんか」

「……弥栄子さまはいかがしますか」

「俺が代わるとするかの」

ひょいと差し出されたのは、夜道にぼんやりと浮かぶ、桔梗さんの細腕でした。香蘭さんと桔梗さんは、どちらも色白なのですが……桔梗さんのそれが不健康に見えるのは、なぜでしょう。全体の線が細いから? 優男だから? 香蘭さんの白さは輝く白なのですが、桔梗さんの白さは浮かび上がる白さなのです。たとえるなら、鬼火が揺れているような。
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