禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
実をいうと、最初に桔梗さんの袖を掴もうとして「むぅ、邪魔くさいのう」と拒絶されました。心労で弱くなっている女性に対して邪魔くさいとは何事ですか。粉ジュースを飲んだせいでまだ顔色が悪いくせに。あ、顔色が悪いのはいつものことですね。街灯が薄暗いせいでもありませんねごめんなさい、ふん。

それでも、先に言ったとおり不安に駆られてしまった私は、自分よりも年下である香蘭さんのお袖を、なるべく端っこのところを、ちょいと摘ませてもらっているのです。……かっこ悪いのは自覚がありますから、ここはノーコメで。

「それで、桔梗さん?」

「んむ?」

「話の続きですよ。ウィークリー事件とたたりもっけ……話してくれるって言いましたよね」

「しかしお前さん、膝笑っとるしの?」

「これは、山登りで疲れたようなものです!!」

「ほーかいほーかい」

ブーツを履いているせいで足音はゴツゴツしているのに、その笑い声といったら、神社にぶら下がっている鈴のようでした。私、あの鈴があんまり好きじゃないのです。だって、笑われているみたいじゃありませんか。もっとも、この人の場合文字通り〝空ん空ん〟と中身がありませんが。
< 58 / 92 >

この作品をシェア

pagetop