モウ スキジャナイ
一人ぬかし…
この人は陸上部の二年生の先輩…
「抜かれちゃった!」
まだ7位だけあって余裕の笑顔だ。「裕美子いっきまーすっ」と古いアニメ(ガンダムのアムロさん)の真似をした。
もう一人ぬかし…
私は慎重にペースをあげた。
このままいくときっと私の新記録になる。
喉が脚がちぎれそうだ。
でも山田先輩を見つけるんだ。
もう一人…
この人はバスケ部の先輩だ…
もう一人…
この人は…陸上部の引退した三年生の先輩だ…
「はぁっ裕美子っ頑張れっはぁっ」
私は力いっぱい「はいっ」と言った。
私は最後の坂道を慎重に登った。登ったところに山田先輩と三年生の先輩を見つけた!
急いでは駄目だ…スタミナ切れになる…
慎重に…
これ以上はまだペースをあげれない。
それでも二人のすぐ後ろにつくことが出来た。このまま走ってラストスパートで山田先輩を追い越す。
そんなこと出来るのだろうか…もう脚は「休ませてくれ」と言っているのが分かる。
でもここまで来たんだ。
私はスピードをおとなさかった。
そしてグランドが見えた。
このグランドを一周してゴールになる。
山田先輩がスピードをあげた。
離されていくのが分かる。
私はまだスピードをあげなかった。
山田先輩がまだまだスピードをあげていく。
この人の隣を一瞬でも走りたい…
唐突にそう思った。
だって先輩は見えるとこにいるんだから。
私はスピードをあげた。
三年生の先輩を抜かした。
まだまだ山田先輩と私との距離は縮まっていない。
走って…お願い…
もうガクガクな自分の脚に祈った。
少しずつ山田先輩との距離が縮まっていく。
ついにあと100メートルで先輩と目があった。
先輩は嬉しそうに笑い、更にスピードをあげた。
もう私は負けたくなくて負けたくなくてスピードをあげた。