蜜林檎 *Ⅰ*

心乱されて

眠りについた樹の寝顔を

見つめる杏。

閉じた瞼、洩れる息づかい

・・・彼の唇が

ついさっき、こう呟いた。

「・・・君を離さない」

その言葉を、心から嬉しいと
想う杏だった。

だけど・・・

ベッドルームのドアを
音を立てずに、ゆっくりと
閉めた後

リビングルームの窓から
差し込む朝日に導かれて
窓の外を見つめた。
 
燦々と降り注ぐ光を受けて
動き出す町並み。
 
そんな風景を見つめながら
杏は瑠璃子に電話をした。

「もしもしルリ、ごめんね
 こんなに朝早くから・・・」

瑠璃子は、起きる時間だった為
に構わないと寝ぼけた声で話す
 
そして、何があったのかと
杏に問いかけた。

「アンが
 家に連絡しないなんて・・」

『話してもいいよ』

「わたし・・・今
 イツキと一緒にいるの」
< 137 / 337 >

この作品をシェア

pagetop