蜜林檎 *Ⅰ*
樹と別れ、振り返ることなく
前だけを見て歩いて来た百合
の足が止まる。

家のドアの前で立ち尽くした
彼女は、あの日と同じように

遠く・・・遥か彼方
一点を見つめた。

その瞳に映るのは、幼い少年
の後ろ姿・・・

樹は、何も知らない・・・

樹の心を優しい夜風が

吹き抜けて行く。
 
樹をずっと支配していた百合
への罪悪感は消えて行き
彼の心は、穏やかになる。  

もちろん全てを許してもらえた
などとは思っていない。
  
百合の左手に残る傷跡は

一生、消える事は無い。

でも、そこに囚われていては
いけない・・・
  
今、樹がやるべき事は

杏を大切にする事。
  
「杏をユリのように
 
 悲しませたりしない」   

そう心に誓い

樹は

愛しい人を待つ。
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