風花火
「アリシア。久しぶりだね」
私達が逢えるのは本当に少なくなっていたわ。
「久しぶりです、閣下」
その頃は私も無事成人していて、男の兄上とは身分を変えられていた。
「にぃにで良いよ、アリシア」
「分かりました。では、にぃに」
「敬語は要らないって…」
兄上は困ったような顔をして笑った。
「分かりました。それよりご用があったんじゃ?」
「ああ、うん。アリシアの地位を僕より上げてもらえるように交渉して来たんだ」
「は?!にぃにったら何を言って…」
兄上は父上に直談判したらしい。
私を兄上よりも遥かに高い地位へ置いてもらえるように…と。
私は敬語も忘れていた。まぁそれでも良かったのだけれど。
「冗談やめてよ。そんな…」
ありえないことだわ。不可能すぎる。
けれど兄上は本気だった。
「冗談なんかじゃないよ。僕は本気だ。アリシアみたいな魔力も剣術も高い者を指揮官止まりで許されるはずはない」
だろう?と彼は笑った。私も初めて見た表情だった。
「にぃに…よろしいの?そんなことして?」
「平気だよ。僕がしたかったんだ。父上の跡継ぎは…」
      君だよ、アリシア
兄上の言葉に耳を疑ったわ。変なこと言うんだもの。
「えぇ?!私が?!熱でもあるんじゃない?」
「ないよ。大丈夫、心配いらないよ。父上はもう退任されるだろうから」
「何故?」
父上が退任す筈がない。あんなに王位にこだわっていたのだから。
「父上は精神(ココロ)と肉体(カラダ)を病まれたんだ。もう統治するのは無理だろう」
「父上が…?」
あんなにはつらつとしていたのに…?
「うん。医者はもう治る見込みがないと」
「でも、昨日お会いしたときは…」
元気だっただろうか?御簾越しだからなんとも言えない。
でもそういえば声とか雰囲気とかおかしかったような…
私の考えが分かったのか、兄上は詳しく話出した。
「父上が病み出したのは、本当に最近だ。前に相談されてたんだ民達が従わなくなったと。それについてとても頭を悩ませていたから、そのせいかもしれないって」
「では、民は謀叛を?」
「そうじゃない。噂だよ」
「噂?」
「うん、父上は噂を聞きつけて心を病れたんだ」
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