【短】─サクラサク─
 この桜はじーちゃんの親──つまり、俺の曾祖父母がじーちゃん生まれたときに埋めたそうだ。


 それにしては立派な桜だと、我ながら思う。


 よく登ってじーちゃんに怒られたり、心配かけちゃったり。

もうあの顔が見れないのだと思うと、少しだけ、寂しかった。




 ──…登れるかな?


 俺の小さな冒険。


 ズボンに忍ばせておいた携帯灰皿に吸殻を押し付け、再びしまいこむ。


 足を太い幹にかけて、うんと腕を伸ばせばどうにか手短な枝につかめそうだ。


 仕事に追われていたせいか、鈍りきったこの身体。

明日は確実に背筋が筋肉痛になることは、もうわかっていた。


でもやめられない。



 そうして、やっと掴んだ枝に足をかけて腕を引き、繰り返すうちに思い出したように更に天に向かう。


 夢中で登ってしまい、もう目の前には細い枝しかないその隙間から屋根の瓦が見えた。


下を向けば、だいぶ高いところまできたことがわかる。



 温かい陽の光とピンクのグラデーションが心にしみる。


 ……じーちゃんと、もう一度登りたかったな。


大きな幹に寄りかかって、そっと瞳を閉じた。



「ふぁ〜」

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