花の魔女

少しだけ痛む傷にナーベルの顔が思い浮かんで、ルッツの制止も聞かずに駆け出した。

ルッツとドロシーも、ラディアンの後を追って塔へと向かった。


しばらく走っていて、妙なことに気がついた。


敵の兵が、一人もいない。


荒れた中庭からだいぶ走ってきたが、ここに来るまで矢一歩飛んでこなかった。



敵がいることはわかっているだろうに兵が見回っていないなんておかしい。


罠だろうか。


そう思いながら道を右に曲がったところで、三人は信じられない光景を目の当たりにした。

そこには大勢の兵がいた。


大勢はいるのだが、全員太い蔓でお縄になっており、抜け出そうと必死でもがいていた。

おまけに兵が転がっている向こうの道は、石壁が崩れて見事に塞がれている。


その崩れた瓦礫の上に座って、にこにこと笑顔を浮かべながら日傘をくるくる回している女性がいた。


ラディアンは女性に気づくと、額に手を当てた。


「母上…」


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