花の魔女
魔法使いサイラスは、幼い息子がいつもならまったく興味を示さない水晶をじっと見つめているのに気がついて、もしやと思い近づいた。
「ラディ。どうかしたのかい」
小さなラディアンは顔をあげ、少しためらうように父の顔を見た。
サイラスはラディアンの横からそっと水晶を覗き込んだ。
透き通った玉の中心に映し出されているのは、自分が昨日見つけだしたばかりの女の子。
昨日見せたとき、いつもと反応が違ったのでこれはと思ったのだが、ラディアンが何も言ってこなかったので黙っていた。
でも、確かに息子はその子に興味があるらしい。
焦れたサイラスは、かわいい息子の頭に手を載せ、屈んで目線を合わせた。
ラディアンの澄んだ青い瞳が、不思議そうにサイラスを見つめる。
「この子に会いに行ってみるか?」
サイラスがそう言うと、ラディアンはこくんと嬉しそうに頷いた。
「会ってみたい!」
サイラスは目を細めてそうかそうかと頷き、ラディアンを抱き上げた。
きょろきょろと辺りを見回し、妻が近くにいないけとを確認する。
サイラスの妻は怒ると恐いのだ。
力ある魔法使いは、何より自分の妻が怒ることを恐れていた。
「…母様には、内緒だぞ」
そう言うとともに、二人は音もなく一瞬で屋敷から姿を消した。