土偶伝説
 そう思い首を傾げていると、土偶は低く、地獄の底から搾り出すような声で云った。
 

「――ねぇ里中、さっきから里中の側で笑ってるおじさんって、お父さん?」


「は? 何云ってんだよ。誰もいないし……。家には俺だけなんだけど」


 そう答えながらも、突然頭から冷水を浴びせられた気分になり、一気に恐怖を感じた俺は、土偶の問いには答えられず慌てて電話を切った。

 その後は無我夢中で家を飛び出し、友達の家まで向かったのである。

「おぅ、里中! 何だよお前、顔真っ青じゃん。そんなに息切らしてどうした?」


 友達の池田は、俺のただならぬ雰囲気に驚いている。


「いや、後で話す。とりあえず中入るぞ」


 池田の家に入ると、俺はすぐさま携帯で土偶に電話をかけた。


「もしもし、土偶? さっき急に切って悪かった。あのさ……さっきのはどういう意味?」


「そのままだけど……」


 土偶はただでさえ低い声を、更に低くしてそう答えた。

 そのままって、何だよ。部屋には俺しかいなかったのに。

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