土偶伝説
 携帯の着信履歴を見ながら土偶の電話番号を押すと、電話はすぐ繋がった。


「悪い悪い。何か途中で切れちゃってさ。さっき何か云いかけたみたいだけど何?」


「――あぁ……うん。ただ嫌な予感がしたから……」


 そう云って土偶は黙り込んだ。


 嫌な予感って何だよ。
 足元から得体の知れない恐怖心が襲ってくると同時に、俺は冷や汗をかいていた。

 公衆電話の周りは、夜中だということもあり、暗く街灯はチカチカと点滅して電気が切れかかっている。そして、昼間は子供達で賑わう校舎や校庭も不気味なくらい静まり返っていた。

 受話器を耳につけたまま、俺の視線は小学校を彷徨っている。


「クスクス……キャッ……キャッ……本当だ~」


 土偶と通話中の受話器から、突然子供の笑い声や話し声が聞こえた。

 え? 確か土偶には小さい兄弟はいないよな。親戚の子供でも来ているのか?


「土偶、今、親戚の子供でも来てるのか?」


 里中がそう訊いている間にも、子供達の笑い声や話し声が聞こえており、その声はどういうわけか、さっきより大きく聞こえる。


「いないよ……。へぇ~、里中にも聞こえるんだ」


 土偶は意味不明なことを云った。

 じゃ、この子供達の声は? 混線? 
 里中が考えあぐねている間にも、子供達の笑い声や話し声はどんどん大きくなる。というより、近づいているような……。


「里中、今小学校のところにいるでしょ? 早く帰った方が良いよ」


 あれ? ちょっと待てよ。俺は土偶に、今いる場所を云ったか? ……いや、云ってない。どうして分かったんだろう。

 その時、受話器から、ひと際大きな子供の笑い声や話し声がたくさん聞こえた。


 うわーーーっ!


 俺は反射的に受話器を投げ捨てると、電話ボックスから無我夢中で逃げた。

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