軌跡
「鋭いね、賢介くん。そのとおりだよ。僕だって暇じゃない。それくらいの目論見がなかったら、貴重な時間を割いてまで特定のバンドに肩入れなんてしないよ」
「なぜ、最初からそうに言ってもらえなかったんですか?」
 そうだ、なぜこんな人を騙すようなことをしたのだ。
「それを言ってたら、君たちは今みたいに我武者羅に努力してたかい?」
 さすがに賢介も黙ってしまった。最初からそれを伝えられていたら、有頂天になり、集客に必死になったりはしなかっただろう。
「別に騙すつもりはなかったんだよ。だから気を悪くしないでね。これからは今まで以上に頑張ってもらう必要がある。僕らが尻を叩いて頑張らせることは簡単だけど、君たち自身で頑張るって気持になってもらわないと、この世界じゃ生きていけない。そして君たちは、期待どおりに頑張ってくれた」
 そこまで言うと、満足そうな笑みで四人を見回した。
 一見チャラチャラし、物腰の柔らかい話し方をするが、さすがに業界という世界を生き抜いてきただけのことはある。今回はまんまと一杯食わされた訳だ。だが、不快な気は一切しなかった。
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