透明人間の恋
口から零れるのは声にならない嗚咽で
彼女は姿は見えないだろうけど気配や息の音で分かったのか
ピタリと歌を止め僕の方を(そうは言っても見えないから少しずれたところを)見て

「泣かないで」

確かにそう言った



どのくらい時間が経ったのかは分からない
静にでも確かに時間は経っていて
涙は止まった

「ねぇ、あなたはだあれ?
お母さんやお父さんでもないよね
でも先生や看護婦さんでもない
ねぇだあれ?」

綺麗な声だった
今まで聞いた誰の声よりも
彼女の質問に答えたい
でも出来ない
声を出すことが出来ないから
だから僕は透明人間になった
答えることも喋ることもない
そしてこれ以上近づくこともない
彼女は何かを察したのか諦めたのかまた歌を歌いだした

切なくてどこか悲しい歌を


そして僕は毎日のように彼女の部屋に行った






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