サクラノコエ
「……さん。松永さん」

後ろを振り返ることもなくズカズカと歩く俺を小走りで追いかけてきた理紗に、グッと腕を掴まれ仕方なくそちらを振り向くと、いきなり不機嫌になった俺の態度に理紗は戸惑いの表情を浮かべていた。

「どうしたの? 急に……」

状況が飲み込めず声を震わせる理紗に対し、自分の感情にまかせて

「別に」

と冷たく言い放つと、その一言が誘い水になり、理紗を責める刺々しい言葉が口をついて飛び出してしまった。

「お前、誰にでもああいう顔するんだ」

いつも俺だけに向けられている理紗の無邪気な笑顔。

俺と話すときとなんら変わりのない笑顔が、田端にも向けられたことが理屈ではなく嫌だった。

突然責められた理紗は、

「私はただ……松永さんのお友だちみたいだったから、変な態度とっちゃいけないと思っただけで……」

と、自分の行動を説明ながら、必死に涙をこらえている。

滅多に見ることのない理紗のその表情に、チクリと胸が痛む。

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