向こう岸のきみ【掌編】
* * *
それからほどなくして、彼は河原から姿を消した。
ある朝娘が眠りから覚めると、もう彼はそこにはいなかった。
殺風景な河原に、ただぽつんと、彼の痕跡が残されていて。
娘はそれを呆然と眺め――やがて、ハラハラと泣き出した。
薄紅の衣に涙の染みを幾つ作っても、ぽっかりした寂しさが止まらなかった。
「…どこへ行ってしまったの…?」
彼が彼女を想ったように、彼女もまた彼を想っていたのだった。
いなくなって初めて、気がついた。