Parting tears
 唖然としていると、和哉はツカツカと家に入ってくるなり、リビングの椅子に腰掛けた。


「誰とどこ云っただの、家に居ろだの云われて、うざかったんだ? そう思ってたんだ? 浮気して俺を裏切ったくせに、よくもそんなこと云えるよな」


 和哉は玄関の外で、電話の会話を聞いていたのだろうか。私は驚きのあまり、なかなか声が出なかった。


「何とか云えよ。せっかく結麻の好きな『ボン』のシールが集まったから持ってきたのに」


「い、要らない。だから帰って。もう別れたんだから」


 私は搾り出すようにそれだけ云うと、和哉を無理矢理玄関に出そうとした。けれども和哉は意地でも動かず帰らないので、怖くなった私は自分の部屋に駆け込むと鍵を掛けた。

 部屋の扉を何度も叩き、和哉は「開けろ」と怒声を上げたが、私は耳を塞ぎしゃがみ込んだ。しばらくすると急に静かになり、玄関のドアが開け閉めする音が聞こえたので、恐る恐る部屋の扉を開けると、どうやら和哉は帰ったようだった。急いで鍵を閉めると、またしてもチャイムが鳴った。

 心臓が止まるかと思ったくらい驚き、今度は覗き穴から見ると武山が立っている。


「俺、武山だけど、開けて貰える? もう元彼なら帰ったよ」


 えっ? 武山は外で見ていたのだろうか。気になった私は玄関の扉を開けた。


「何で、武山先輩、それを知ってるんですか?」


「ああ、何か電話慌てて切ったから、何となく心配になって来てみたら、丁度元彼が出てきたところで、歩いていったのが見えたんだ」


 それから、玄関で武山と少し話しをしていたのだが、ある物を見せられた。
 それは和哉と美久の仲良さそうな一枚の写真だったのである。
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