午前0時のシンデレラ

泉さんじゃない、他の人がいたから。


「…あら?可愛い子ね!」


―――女の、人が。


「久しぶりだね、咲良さん」


「泉くんの知り合いなの?」


「うん。近くのお屋敷のお嬢様だよ」


「へぇ~!すごい!」


泉さんのお店は、カフェだから。


お客さんがいるのは可笑しいことじゃない。


…でも、でも。

あたしは今まで、他のお客さんに会ったことがなかった。


あたしだけの場所だと、思ってたのに。


「咲良ちゃんていうの?」


女の人は、綺麗な漆黒の髪を揺らし、あたしに笑いかけた。


「………は、い」


あたしは、そう答えるのに精一杯だった。


大人の、女の人。


この人には敵わないと、あたしの何かが訴えていた。


「咲良さん、座りなよ。今日は何飲む?」


優しいいつもの笑顔で、泉さんはあたしに訊いた。


どうしてだろう。

…笑い返せない。


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