午前0時のシンデレラ

その貼り付けたような笑顔を、殴ってやりたい衝動を押さえつけるのに苦労した。


代わりに、あたしは柳を力の限り睨み付けた。


「大丈夫ですから」


そう言ったあと、柳の歩く速さは遅くなったけど、表情が強張ったままで。


あたしは不安を拭いきれないまま、会場へと入った。


「…あ、咲良さん!」


広々とした会場に入った途端、すぐに誰かに名前を呼ばれる。


振り返ると、同年代ぐらいの女の子が手を振っていた。


じゃらじゃらとしたアクセサリーを身に纏い、ドレスはミルフィーユみたいにフリルが重なりあっている。


「あ…こんにちは」


誰だっけ、と思いながらも、あたしも笑顔で手を振り返す。


パパと柳に続いて、会場を横切って歩いている間、いろんな人に声を掛けられた。


けど、その中にあたしが覚えてる人は誰一人いなかった。


記憶力のなさ…と言うより、他人への無関心さに心の中で苦笑した。


仕方ないと言えば、仕方ないんだけど。


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