プレーン
「こころ、」

――あ。名前を、

……呼んじゃった。


「畜生が!!」

自分自身への驚愕と、木目がねじれた悲鳴とが、木戸の向こうの姿を隠す。
ほんの、一瞬。

「なんで……」

岬さんが立っていた。
数歩で終わる玄関への道が、無限に伸びる錯覚。
ぐんぐん離れて、また戻る。

岬さん。

僕は彼女の口が、おはようと動くさまを見つめてた。

その口以外に動くものはなく、期待していたあの人の髪が、揺れることもない。
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