プレーン
律義に戸締まりをして逃げ出す前に、頭の中に、あった思いはただ一つ。

僕がこころの正体の、かけら程しか知らない事を。

彼女は一体誰なのか。

学部は、名字は。年齢は。
僕は彼女の名前と声と、ころころ変わる表情と……それだけを。

本当にそれだけを、知って満ちて笑ってた。

他はなんにも知らないで、知らなかったと驚くつもりでいたのだろうか。

友達なんてそんなもん。
鍵を刺したら聞こえた言葉。
だけど狂った部屋の戸の、鍵を左に回したら、これでは駄目だとひらめいた。

閉じたとびらに影二つ、薄くにじんで立っている。
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