【中編】ひとつの愛



「きっかけ?」

「そう、きっかけ」



んー、と悩んだママは一度外を見ると、またあたしを見直し



「きっかけなんてないわよ。気づけば好きだったもん」



と、子供のあたしが見てもわかるくらいの可愛い笑顔で答えた。



「愛姫は“きっかけ”がないと、人を好きになれないの?」



ううん、と首を大きく振る。

そうじゃない。


そうじゃないけど……



「わからないの。好きの意味がよくわからないの」

「意味?」

「うん、今までお友達だと思っててね。
好きか嫌いかって言われると、勿論好きなんだ。
でもね、それが恋愛の好き? って聞かれるとわからないの」

「告白でもされた?」

「えぇ!?」



そんなストレートに聞かれるなんて思ってもみなくて、思わず出てしまった素っ頓狂な声。

それを見て、おもいっきり笑うママを拗ねた目で睨んだ。



「ごめん、ごめん。
いやー陽呂の泣く顔が一気に頭に浮かんじゃってね?
ほら、陽……パパって愛姫に彼氏なんて必要ない! とか言っちゃってるじゃない?」



確かに。

パパは、すごーく理解もあって優しいけど、男の子の事になると正直うるさい。

この間の斉藤さんの事だって後から聞いたら、パパは何も知らなかったらしくて。


だから、あたしがパーティを抜けて寝てたのも

『そんな男と喋ったから体調が悪くなったんだ』

って心配してたらしいしね(笑)



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