ヒレン
「美味しくない。何でこれが好きだったんだろう」


僅かに震える声。


煙草を灰皿に押し付け火を消すと大きく息を吐き蒼空(そら)を仰いだ。


背中を向けたまま呟く



刹那


体温(ねつ)を感じた。


力強い腕の中、自分のものとも和真のものとも違う煙草の香り



視界(せかい)が青に染まった。



「離して」


力一杯秀明(かれ)の身体を叩く。


悔しさと悲しさがクロスする。


何で?


どうして?



殺したはずの涙が、堰き止めていたものが溢れ出してくる。


弱い自分は嫌い。



和くんが好きだったのは強い私だから。



天(そら)の上からでも弱い私を見られたくない



何度も何度も叩く。



その間も秀明は何も言わなかった


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