ヒレン
「突然、申し訳ありません」


「いいえ。私も話をしたかったの。コーヒーと紅茶どちらがいいかしら?」


「…コーヒーで」


「どうぞ」


ブラックコーヒーを舞子の目の前に置くと、智子は自分用に入れたアッサムに口をつけた



「ありがとうございます」


気分を落ち着かせるため舞子もコーヒーを一口喉に流す


「何を…何から話せば良いかしら?」


「…単刀直入にお伺いします。北先生との関係は?」


多分。答えはわかってる。


伊達に温泉街で育ってはいない


「…不倫だったわ。気づいていたでしょ?」


「……はい。理由ありのお客様はすぐにわかります」



不倫だったり駆け落ちだったり、はたまた逃亡だったり、温泉街にはいろんな人が流れ込んでくる。


その土地に住んでいれば一目でわかってしまう


「過去形なんですね」


「…ええ。でも貴女も禁断を犯してる。そうでしょ?」


「……はい」



どうして……?



「…私も、私の初恋は血のつながった兄だったの」



「え……」


「12歳の時に亡くなったの。それがこの仕事に就こうと思った切欠。優しくて強くて、大事な私の片割れだった」



穏やかに微笑む智子を舞子は綺麗だと思った



「…先生の言ったとおり、私の恋人は兄です」


「貴女と初めてここで過ごした時、似てるって思った。昔の自分に」


似ている?…


私はこの人のように強くなれるのだろうか…


「医大に進学して、私は一人の人と出会ったの」


立ち上がると智子はデスクの上に伏せられていた写真立てを手に取り舞子に見せた



「これは?」


写っていたのは今よりも若い長崎先生と北先生、そしてもう一人




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