ヒレン
「この真ん中にいるのが塚原和真。北先生の先輩で、私の恋人だった」


「だったというのは?」


「…研修医の時に事故で。プロポーズされていたの」


智子はポケットから色あせたお守りを取り出した。



お守りにしては少しふくらみがある


「このお守りは智が良くなるように私が買ったもの。そしてこれが和くん、彼からもらった婚約指輪」



小さく輝くダイヤモンド。

高い代物ではないが凝ったものだ


「北先生とはそれから?」


「…智のことを和くんにはいえなかったの」


視線を下に向けポツリ、ポツリと語りだす。


智子の瞼は僅かに震えていた


「言えないまま一緒になるのが怖くて、結婚を待ってもらっていて、研修も2年目に入ろうとしていた時に、彼は亡くなった。私が殺したようなものなの」



私が…ころした?


「今から行く。そのメールに気がつかなかった。夜勤明けの居眠り運転だったそうよ」


「それは……」


「私が止めれば良かったの。誰に何を言われてもこれは私のせい」


僅かに視線を上げた智子の瞳小さな滴が浮かんでいた


「泣くこともできずにいた私を包んでくれたのが秀明(かれ)だった」


「……」


「それから何も求めずずっと一緒にいてくれた。今のような関係になったのは2年ほど経ってからよ。そのときはまだ不倫じゃなかったけれど」


「…どうして今のようになったか聞いても?」



あの時感じた絶対領域はこれだったんだろうか





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