ヒレン
時計が10時を回ったせいか郊外へと向かう道はやけに空いていた。


智子を後ろに乗せいつもよりスピードを落とし、秀明はバイクを走らせていた。



30分ほど走り高台に着くと、バイクを止め、空を見上げた。あたりに人気は全くない。


「ストロベリームーンだね」


秀明の背中に体重(からだ)を預けたまま呟く。


「先輩。これ」


そう言って1枚の封筒を取り出した。


「え、でも」


入っていたのは飛行機のチケット


「久しぶりに星を見に行きましょう」


天体観測で有名の姫雪湖の展望台、きっとこの夏もたくさんの観光客が訪れる。

視線の先、その表情(かお)に言葉が詰まる。


「待ってる」


返そうとした言葉は、重ねられた唇に消された。


「明日も早いし、帰りましょう」


「・・・・・・」


マンションまでの路、ジャケット越しに伝わる体温(ねつ)がやけに胸を締め付けた。
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