ソレデモワタシハアナタヲアイス
さっきまでのふて腐れた顔も不機嫌な顔も一体どこに隠したのかサキは花火の色に顔を染めながら空を見上げた。
「あ!カメラ!」
何発か花火を見届けてからサキは慌てて俺の手を放して新しくしたというデジカメを取り出した。
「ちゃんと撮れそう?」
空にデジカメを向けたサキと目線の高さを合わせた俺は一緒に画面を覗いた。
「良くない?やっぱり新しくして正解」
とりあえずシャッターを切ってみた画像をサキは俺に見せて来た。
「じゃ、お好きなだけどうぞ」
写真に勝てない事を分かっている俺は繋げない手の代わりにサキの後ろにピッタリとくっついた。
「ええ、もちろん」
いつもなら真っ赤になって悲鳴をあげそうな状況だというのに、花火に夢中になっているサキは暑さも気にせずに黙々とシャッターを切り続けている。
―――絶対コイツ、俺より写真好きだよな…―――
俺は花火を見上げながら去年の今日を思い出した。
あの頃、俺はまだサキの事を美咲と呼んでいた。
サキの連絡先も知らなかった。
けれど今と同じ事もある。
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