ソレデモワタシハアナタヲアイス
「好きだっつってんの」
もう一度、美咲の耳元に俺は近付いた。
今度はちゃんと伝わったらしい。
俺の手を掴んでいた美咲の手がピクリと動いた。
どこかを見たまま固まっている。
俺は、美咲の両手に掴まれている自分の手をそっとはずした。
掴むものがなくなった美咲の両手は、静かにダランとあるべき位置に戻った。
爆音が響く中、俺達の間だけ今までかつて味わった事のない空気が流れている。
今更になって俺は、さっきの苛立ちの理由を理解していた。
美咲の視線を奪うものに、俺は我慢が出来なかった。
それが俺を動かした。
俺は、美咲を見つめ続けた。
美咲はさっきからまったく動かない。
俺も沈黙を守った。
いつの間にか体育館に満ちていた爆音が止んでいる。
ザワザワと観客達が波になって体育館を後にしようと動き出した。
人の話し声や足音が押し寄せる中、やっと美咲が口を開いた。
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