【短編集】エーテルの底で
屋上に昇っても、人間は空にとうてい手が届かない。
馬鹿みたいだ。
俺の吐いた煙はこんなに簡単に、空へ昇っていくことができるのに。
重たい体をズルズルと引きずりながら生きて、最後には地面に叩きつけられたのを俺はみた。
兄貴だ。
兄貴はプライドなんか持ってなかったくせに世間の目に泳がされて、優等生な人生を送っていた。
だけど大学受験というたった1回の失敗から全てに見放された兄貴は心休まる綺麗な空を求めて、でも飛べなくて、死んでいった。
馬鹿だ。
ひとりの人間如きに過大期待していた大人たちも
同じ人間なのに兄貴のありもしない才能を妬んでいた同級生たちも
そいつ等に踊らされた兄貴も
みんな馬鹿だ。
だから俺は空を仰がない。
どんなに足掻いても最後には落下してしまうなら、自分から墜ちていけばいい。
誰にも負けずに墜ちていける。
俺は煙草の灰を屋上のコンクリートに落とした。