溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「透子ちゃん…?」

半年前の母との会話を思い出して。

多分落ち込んでる私の表情に気遣いながら、小さく声をかけてくれた弥恵さんに視線を戻した。

「何か気に障る事言ったかしら…?
それか…何だか落ち込んでるかしら?」

私に向ける声も視線も優しくて心から私を心配してくれているのがわかる。
初めて会った時にも感じた人間性の良さ。
仕種にも口調にも表情にも滲み出ている。

「父は…私を引き取りたがったって…母から聞いて…それに驚いてずっと…。
聞いてから半年経つのにまだ…信じられなくて。私は父に望まれてなかったと思ってたから」

まとまりのない言葉ばかりが口から出てしまう。
小さな頃から思ってた、父は私を捨てた。

愛してない女との間に産まれた子供に注ぐ愛情なんてないだろうし、離婚して私と離れてすっきり生きてるんじゃないかと 誰かに直接言われた訳じゃないけど…。

そんな気持ちを抱えてきた長い日々。
有二ぱぱの存在の暖かさ故にそんな気持ちを封印して忘れたふりをしていたけれど、私という人間を形成するいくつかの基本的な要因。

私の性格を今のように育てた一つの重い過去。

私は父に望まれずに産まれたって事。

さすがに、この歳になると他にも悩む事は多くて、その事ばかりに囚われる訳はないけれど。

ふとした時にどーんと心が重くなる事実にため息をつく度に、父に捨てられた人間だという逃げられない過去に縛られていた。

なのに。

実際には、私を欲しがって落ち込んでたなんて。

「信じられない…」

呟く私。

「そうよね。全く連絡もしないままに生きてた」

静かに呟く弥恵さん。
その声は少しも暗くなくて、少し笑ってる気もする。








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