溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「父は…そんなに私を想ってくれてたんですね…」

「妬けるくらいに透子ちゃんを愛してたよ。

離れ離れな分余計に気持ちは透子ちゃんに向かってた。
何度か透子ちゃんが手掛けた物件を一緒に見に行ったけど、心底誇らしげで…幸せそうだった」

思い返すように言葉を紡ぐ仁科さんの隣で、少しずつ涙がおさまっていくように気持ちを鎮める。

頬に残る涙を手の平で拭って、気遣わしげに視線を投げる仁科さんに、なんとか笑顔を作ってみる。

…きっと可愛くない笑顔…。

父への思慕と、自分への悔しさが入り混じった気持ちは落ち着かないままだけど、今まで不安定だった父の実体が身近に感じられて。

「…初めて…小山内竜臣の娘だって実感できたかもしれません…。

ちゃんと会った事もなくて…頭ではわかってはいても、なかなか心に馴染まなかったから」

幻のような存在にしか感じられなかった父の姿が、竜の姿に重なって見える。

「…欲を出せば…ちゃんと会いたかったし…一緒に仕事がしたかった」

再び熱くなる目を瞬きをしながらごまかして。

へへっと苦しく笑いながら仁科さんに肩を竦めてみせた。
首を傾げながらも、優しく頷く仁科さんの瞳も赤い…。

「父は…幸せでしたか?」

ずっと心に刺さってしまって棘のように気になっていた…。

父の人生は幸せだったのか…。
私を恋しがりながら終える事となった人生に幸せを感じていたのか…。

仁科さんは、その体を私の正面に向けると、はっきりと。

「ああ。確実に幸せだった。
透子ちゃんの存在そのものが、小山内さんの幸せだ。
たとえ傍にいられなくても、元気に生きていてくれるだけで…それだけで幸せ。

まぁ…俺も子供を持ってそう気づいたんだけど」

苦笑しながらも、はっきりと言い切る仁科さんの言葉が、じんわりと私の心に届く。
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