童話少年-NOT YET KNOWN-



相変わらずわけが解らず眉を潜めてみせる桃恵に一言事態を伝え、そして涓斗の家へと駆け付けた時、同じように連絡を受けたのだろう紗散は、すでにそこにいた。

「弥桃!」
「紗散。ヤヨイちゃんがいなくなったって」

どういうこと、と、息切れでまだ定まらない視線で問い尋ねる。
しかし状況は紗散だって似たもので、眉尻を下げて首を傾げるだけなのだ。

育て親である彼らの叔母はおろおろと泣きそうな顔で歩き回るだけだし、彼女の夫は、とりあえず妻を落ち着かせようとこちらも一杯一杯なようだ。
そんな中少なくとも取り乱したようには見えない涓斗だったが、ソファーに深く腰掛け投げ出したその爪先は絶えずぱたぱたと動いていたし、紫がかった深い栗色の瞳は、ずっとそこら辺をさ迷っていた。

「涓斗、」
「……あ、……わり」

そんな様子に気付いてしまっては、呼ばれて初めて気付いたように一瞬合った目をすぐに逸らした彼が、平静であるとは到底思えなかった。


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