童話少年-NOT YET KNOWN-


普段ならば、相手が怯えたとしても睨み返されたとしても真っ直ぐに視線の先を射抜くそれが、今は自身の膝か、床にしか向かない。

「どういうこと、ヤヨイちゃんがいなくなったって」
「それが……暗くなっても、学校から帰らなくって」
「え、風邪引いてたんじゃねーの?」
「熱下がったから、行くって聞かなかったんだよ。だから、」
「学校には電話は?」
「した。ら、来てないって」
「え?」

話し方もどこか心許ない。
いつもは保護者然とすらしているほどしっかりして、誰よりも冷静な判断と反応が出来るはずの涓斗が、だ。

「……学校、行ってねーの?」
「ヤヨイに限ってサボりなんて有り得ねぇんだよ……行く途中になんかあったとしか」
「ケーサツには」

遂には声を出す気力も尽きてしまったのか、ただ頷くだけで。

弥桃は、紗散を見た。
紗散も、弥桃を見ている。

彼のこんな様子を見たのはお互いに初めてで、紗散までが困り果てて動揺が伝染しかけている。

「みど……、どーしよう、どーすれば」
「ちょっと、落ち着いて。紗散までテンパってどうすんの」
「だってさ、」

何か動いていなければ、居た堪れない気持ちは、弥桃にだって分かった。
とはいえ、警察にも届け出てあるのだし、一般人なうえに中学生の彼らが出来ることなど、なにもない。

「涓斗、ヤヨイちゃんの通学路は」
「わかんねぇよそんなの、中学と方向ちげーし」
「じゃ……いっつも一緒に行ってる友達とかいないの」
「いる、けど……途中から合流してるんだって。ここ、校区のはじっこだから」
「じゃあ、合流する場所までどう来てるかはわかんねーんだな……」

なにもなかった。


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