童話少年-NOT YET KNOWN-



「あれから、ケータイのGPS頼りに捜したら、通学路でランドセルが見つかってさ。なにかあったんだとしたら多分そこだろうって」
「……誘拐、……かな」
「でもケータイは荷物と一緒に落ちてたんだろ? 誘拐だったら一緒に持ってくんじゃないの」

紗散の言葉を最後に、しばらく会話が途切れる。
昼休み、相変わらずいつもと同じように適当な空き教室で昼食を取っている時のことだ。
明るい話題など、誰も思い付かなかった。

朝、SHRの始まる前から席について、しかもきちんと起きていた涓斗を、昨日の出来事をすでに知っている教師達は、ひたすらに同情の目で見た。
普段からそうした傾向があるというのにいつにも増して腫れ物を触るように扱い、誰も核心には触れずに、労りや励ましの言葉を遠巻きに掛けるだけ。
そうしてそんな無責任な人達に、今まで学校でなど見せたことのないような微笑みと共に「何のことですか?」と吐いたのは、確かに涓斗本人だ。
怯んだ相手には、嘲笑を返した。

「涓斗ー、チョコメロンパン食うー?」
「いらない、それ甘過ぎね?」
「美味しーのに。ね、カレーパン一口」
「欲しいなら最初から言えよ」
「あざーっす」
「紗散、メロンパン三口」
「そんなに食うの!? やだ弥桃にはやんねー!」

その点2人は見事だと、雉世は思う。
真剣に案じることも、少しも気にしないふうにおどけて見せることも出来て、そしてそのどれも、涓斗は許容しているのだ。
それは無意識に『弥桃と紗散だから』という特別視の表れなのか、兎も角、涓斗の口許には作り物でない、リラックスした微笑みが時々浮かぶ。

自分がその中に入っているか、わからないけれど。と、雉世は考える。
どんな空気だろうがどんなに涓斗が疲れていようが、伝えなければならないことがあるのだ。

気が重いまま、口を開いた。


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