童話少年-NOT YET KNOWN-


埃だらけの廃工場は、恐らく一昔前には随分と栄えていたことだろう。
目的のよくわからない大きな機械が幾つか、そしてその辺りの棚に無造作に置かれた軍手や作業着に、最後の日からぱたりと時が止まったかのような錯覚を覚える。

そんな中、吹き抜けになった2階の、ある扉の前に、老人が立っていた。
老人とは言っても見た目は初老、猫背ではあるが意志のみなぎる目がどちらかというと若々しい印象を与える男で、年齢の想像はつけづらい。
しかし彼の眉間に深く深く、苛立ち気味に刻まれた皺が、男をどこかやつれて見せた。

男は不意に、激しく咳き込む。
それは辺りに充満しきっている埃と黴の臭いのせいなのか、または他の要因か。
血でも吐き出しそうなほどにけたたましくごほごほと、それだけがしばらく冷たいコンクリートに響いた。

「げほっ、……はぁ、くそっ!」

男が立った扉の前には、少し大きめの機械が据えられていた。
大きさはATM程度、小さなモニターにキーボードが設置され、土台には引き出しの手が幾つも並んでいる。

男は皺だらけの手をキーボードに置いて、何やらかたかたと打ち込んだ。
しかし、やかましく囀ずる鳥の雛のような音を出して現れたのは、モニターに映る、エラーの文字だけ。
彼は更に眉間の皺を深くして、腕は乱暴に叩きつけられる直前で躊躇われ、代わりに苦々しげな声が唇の端から漏れる。

「畜生っ、ポンコツめ……」

そしてもう一度同じ動作を繰り返し、ようやく正常に開いた引き出しから、小さな鍵を取り出した。
機械はどうやら、電子式のロッカーか金庫のようなものだったらしい。

ふん、といかにも不機嫌そうに鼻を鳴らし、開けた扉の奥の方からは、少女の、咳き込む声が細く聞こえていた。


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